こだわりの肉や野菜を使ったり、おもわず撮りたくなるビジュアルに仕立てたり、安い早いファーストフードの代表だったハンバーガーは、近年華やかに進化し、クラフト感あふれる高級志向の「グルメバーガー」という新しいジャンルを生み出しました。レストランのひと皿と変わらない、創意工夫にあふれた新たな食の体験が私たちを楽しませてくれます。
現在東京と神奈川に7店舗を展開する「カールスジュニア」は、アメリカのハンバーガー文化をそのまま日本で楽しめる店として人気のグルメバーガーチェーンです。主力商品のビーフパティに、オーストラリア産ビーフが使われています。
ひと口のおいしさにこだわるカールスジュニア
「カールスジュニア」は、アメリカ・カリフォルニア州に1941年に創業し、現在世界42カ国に約3800店舗(ハーディーズブランドを含む)を展開するグルメバーガーチェーンです。「made Fresh to Order(ご注文を受けてから出来たてを)」のグローバルコンセプトのとおり、注文を受けてから直火でじっくり焼き上げるビーフパティや、チェーン店では珍しい店内でカットした野菜、ベーコン、チーズ、トッピングの味を引き立てるオリジナルのソースなど、クラフト感を前面に出したおいしさで魅了しています。
ビーフ100%の肉厚のパティは、食べればジューシーでうま味の強さが特徴的。しかし実際に食べてみると、パティ“だけ”が特出しておいしいというよりも、むしろバンズやパティ、野菜、ソースといった食材それぞれのバランスの良さに驚かされます。
スター選手一人が活躍する個性派チームではなく、チームの連携で勝ち続ける盤石な強豪チームといった趣がある、“誰もが納得するおいしさ”がカールスジュニアのハンバーガーの魅力です。
「そういっていただけるとうれしいです。ハンバーガーは食材がシンプルなので、パティの赤身と脂のバランスと食感、野菜の食感と風味、ソースの味わいなど、一つひとつがおいしくなければいけないのですが、そのうえで口の中に入れたときの味のコンプリート感、すべての食材やソースがお互いを引き立たせあうことをカールスジュニアでは重視しています」と答えてくれたのは、日本でカールスジュニアを運営するカールスジュニアジャパン株式会社の代表取締役社長の前川英資さんです。
オーストラリア産ビーフ100%のパティは、牛肉の赤身と脂の割合や成形などがアメリカ本社で決められている他、店内に設置された直火のグリルマシーンも本社指定で、温度も焼き時間も厳密に決められています。さらにタマネギやトマトなどの野菜は、店内でカットすることで新鮮さと食感を大切に。影の主役ともいえるオリジナルソースは、メニューごとに数種類用意され、いつでもどこでも高いクオリティのおいしさを実現しています。
前川英資さん(以下、前川) 「じつは、アメリカの一部の店ではすでに工場でカットされた野菜を仕入れて使っていることもあります。効率面では、カット野菜を使うのはいいと思うのですが、私たちはやはり出来たてにこだわりたい。とくに日本では新鮮さやみずみずしい食感を重視するので、日本のカールスジュニア全店では野菜を店内でカットすることを選んでいます」
グローバルチェーンが求める安定した品質がオージー・ビーフにある
ブランド名がついた「ザ・カール」や「フェイマス スター」などの「CLASSIC BURGERS(クラシックバーガー)」シリーズでは、オーストラリア産ビーフを100%使用するほか、プレミアムラインの「ANGUS BURGERS(アンガスバーガー)」では、オーストラリア産ビーフのなかでも穀物飼料で育ち、赤身の中にほどよく脂が入ったオーストラリア産のアンガスビーフを100%使用しています。
アンガスビーフのパティは、噛むと肉汁があふれるようなパティではなく、ガシガシと噛みながら赤身と脂のうま味を楽しめるのが特徴で、独自のスパイスや、やや大きめに挽かれた肉の食感もあいまって“肉肉しい”パティといえます。
前川 「カールスジュニアの使命は、安全安心な食材を使用したおいしいハンバーガーを安定してお客様にお届けすることです。その点、オーストラリア産ビーフは、農場から加工に至るまでの過程である『トレーサビリティ』がしっかりしています。パティの加工もオーストラリアで行っており、日本に届くまでの間、徹底した衛生管理、温度管理がなされ、私たちが必要とする要素を十分に満たす食材として、日本出店当初から採用させていただいております」
とくに信頼を寄せているのは、加工施設の全体的な質の高さだと前川さん。オーストラリアは、どの施設を見てもすべて高水準で管理をしているといいます。こうした姿勢は、世界中の人に食品を提供するグローバルチェーンにとって最大の価値であるのです。
前川 「オーストラリアは食肉産業で外来疾病がないのも、安定調達に対する安心材料のひとつです。一般的な訪豪観光客に対しても、入国カードに『過去30日以内に家畜に接したり、農場、荒野地帯、淡水の川/湖に行きましたか』という検疫申告があるほど、病原体を持ち込ませないことを徹底しています。それは車が最大の輸出品である日本がそうであるように、オーストラリアが国の最大の輸出品として自国の畜産業の価値を理解して守っていることなのだと思います」
アメリカと北欧で感じた食の多様性と保守性
2021年10月にカールスジュニアジャパンの代表取締役社長に就任したばかりの前川さんは、前職では電器メーカー大手「SONY」で携帯電話事業の事業戦略等を担当しており、外食サービスを経験するのは初めて。まったく新しい挑戦になります。しかし、8年ほど海外勤務を経験したなかで日本以外での食体験をしてきたといいます。
前川 「最初の赴任先はアメリカ、ボストンとノース・カロライナで3年ほど暮らしていました。そのときによく食べていたお肉が、オーストラリア産ビーフのリブアイ(日本のリブロース)だったんです。Whole Foods Market(ホール・フーズ・マーケット)という自然食も扱うスーパーマーケットで買って焼いて食べていました。当時私は、まだ30代で、一番食べていたころだったこともあるのですが、1度に1パウンド(約450g)くらいは食べていました。アメリカ産のお肉に比べて、色がきれいですし、食べておいしかったんですよね。それから10年以上たって、ふたたびオーストラリア産ビーフに出会うのはご縁だなと感じています」
アメリカの次に北欧スウェーデンに赴任。5年間暮らしたスウェーデンでは、魚も多くもっともポピュラーな肉は豚肉で、スモークサーモンや酢漬けニシン、ミートボールなどの加工品をよく食べていたそうです。
前川 「ちょうど2000年代の北欧といえば、ノルディック・キュイジーヌと呼ばれる地元の食材を重視した現代料理運動が盛んで、お隣のデンマーク・コペンハーゲンのnoma(ノーマ)など世界に知られるレストランもありました。ミーティングの場所が古城で、そのなかで食事することもありましたし、レストラン併設の農場も多かったので、チームビルディングやオフサイドミーティングなどを兼ねて1泊でミーティングして帰ってくるようなことも体験しました。ゆとりのある時期だったのもあると思いますけども、日本ではなかなかそうはならないですよね」
そういったアメリカやヨーロッパの食文化を体験して感じたことは「食は基本に忠実であること」だと前川さんはいいます。それは、「食べることについて多くの人はコンサバティブ(保守的)である」ということの発見でもありました。
前川 「海外旅行したアメリカ人に『国に帰って何がしたい?』と聞くと、『ハンバーガーが食べたい』と答える人が一定数いるそうです。それを日本人にたとえてみると、『おにぎりが食べたい』とか『お味噌汁が飲みたい』なのではないでしょうか。つまりそれは、アメリカ人の日常であり、アメリカ人にとっての食文化なのです。それを日本でもそのまま提供するのが、アメリカに本社をもつ私たちの使命だと思っています」
プレミアムバーガーを通じた、豊かな暮らしの提案
カールスジュニアジャパンは、総合商社であるミツウロコグループホールディングスのグループカンパニーとして設立され、2014年から日本でのブランド展開を進めています。
グループでは、ベーカリー事業や水の事業などのサービスも展開。もともとエネルギー事業で創業していることもあり、現在はガス・電気のエネルギー事業を含めた「豊かなくらしのにないて」をスローガンに掲げ、変化する社会やニーズに新しい価値の提案しています。カールスジュニアのハンバーガー事業も、“豊かなくらし”を食から生み出そうとするグループの取り組みであるともいえます。
近年“豊かなくらし”の価値は、多様化してきました。“豊かさ”の視点も、個人から地球規模で見てとることができます。そういったなかではSDG’s(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は、ミツウロコグループホールディングスとして、さらにはカールスジュニアとしてもさまざまな視点で取り組むべき目標だと前川さんはいいます。
前川 「地球環境、気候変動に対する私たちの食の業界が与える影響は甚大です。事業展開にあたっては、土、水への悪影響を最大限に抑えて良好な自然環境を維持する責任があると思っています。それには、さまざまなロスの削減、さらには水、エネルギー資源の利用の削減といったことをパートナー事業者様と一緒に取り組む必要性を感じています。そういったことも考えると、率先してカーボンニュートラルを目指し、食肉輸出国として責任感をもって課題に取り組んでいるオーストラリアの食肉には大きな期待と信頼をしていますし、今後も緊密に取り組むこともできると期待もしています。とくにカーボンニュートラルは、基本的にガスエネルギー事業がベースにあるミツウロコ全体の課題でもあります。2030年から2050年あたりを見越してグループ全体で取り組んでいきたいと考えています」
さらに食の多様化を目指しメニューを増やしていきたいと前川さん。バンズ、ビーフパティ、野菜、ソースというハンバーガーの“形”を崩さずに、ハンバーガーを進化させるには副素材とソースの組み合わせが重要になると考え、ビーフバーガーを中心とした組み合わせのレシピの革新をしていきたいといいます。
前川 「11月に期間限定メニューとして発売している『グルメマッシュルーム アンガスバーガー』などは、そうした新しいカールスジュニアの取り組みのひとつです。オーストラリア産ビーフのパティとマッシュルーム、ソースの組み合わせを楽しんでいただきたいですね。レギュラーメニューでいえば、個人的には『ワカモレベーコン バーガー』が大好きなハンバーガーです。ワカモレは、アボカドをベースにしたメキシコの辛めのソース(サルサ)です。アメリカでは、南部で暮らしていたこともあって、中南米の料理が思い出の味なんです。なかでもメキシカンは大好きなんです」
“社長おすすめのハンバーガー”まで教えてくれたサービス精神満点の前川さん。これからもアメリカのハンバーガー文化に根差しながらも、多様な新しい価値のハンバーガーで私たちを楽しませてくれるはずです。