「渡嘉敷島のおばぁたちは、90歳を越えても自転車に乗ってアクティブに活動していて、みんな元気。その秘訣は、食にあると思うんです!」と声を弾ませながら話しをするのは、2019年に沖縄県に移住し、食と栄養をテーマに活動を続ける石坂優子さんです。

2007年のミス・ユニバース・ジャパンのファイナリストで、その後ミス・ユニバース・ジャパンの美容栄養学講師の経験をもつ石坂さんが結婚を機に訪れるようになったのが沖縄・那覇の西方約30kmに浮かぶ渡嘉敷島です。

島に住む老人たちの暮らしのなかにある食事に、沖縄の食文化と長寿の秘訣を感じとった石坂さんは、島の高齢女性を中心に聞き取りをはじめました。放っておけば失われてしまう食の知恵を、未来に残したいと思うようになったことがきっかけでした。

沖縄県の長寿の秘密は食生活にあった

沖縄県は長寿の国といわれてきましたが、少しずつその状況が変わりつつあります。2020年に発表された「都道府県別生命表」(厚生労働省)によると、沖縄県の平均寿命は、女性が87.88歳で全国16位、男性は80.73歳で43位と「長寿の国」とはいいにくい結果になっています。

しかし、年齢別の平均余命を見ると、沖縄県の女性は75歳と65歳でそれぞれ全国1位。男性も75歳で全国2位、65歳で全国15位と、平均寿命より高い順位になっていることがわかります。つまり沖縄県では若い世代に比べ、高齢になるほど寿命が長くなっているのです。

石坂優子さん(以下、石坂)「いろいろな理由があると思いますが、一つに食生活の変化があると思っています。とくに渡嘉敷島に通うようになって感じているのは、昔ながらの食事の大切さ。沖縄は、日光の強さもあってか、色が濃くてポリフェノールを多く含むような野菜が多いんです。そういった野菜をたくさん食べてるのに加え、良質なたんぱく質をしっかり摂っているのは、おばぁたちの健康の源にあるんだと思います」

夫の母の実家がある渡嘉敷島で石坂さんは、島で暮らす90歳以上の女性たちに子どもの頃に食べていたものを聞きました。「その辺に生えている草も食べられるんだよ」という笑い話とともに、たとえばニガナとよばれる、名前の通りそのまま食べたら苦くて食べられないような野菜を食べていたことを聞きます。

沖縄では「ンジャナ」とも呼ばれているニガナは、コマツナに似た葉野菜で、ビタミンAやC、カリウムなどが豊富。今でもそれをしっかり湯がいて苦味を抜いてから食べます。

加えて魚はもちろん、島で飼っていた山羊や豚もよく食べており、豚や山羊の脂を使って炒め物をするなど、動物性の油脂をよく摂っていたことも知りました。むしろ、現在の高齢者たちは、大人になってから「動物性の油脂はダメだ」と言われるようになって食べるのを控えるようになったそうです。

石坂 「動物性油脂がこの50年ぐらい悪者扱いされていますが、私はバランスだと思っています。じっさい長寿のおばぁたちは若い間はもうずっと動物性油脂を摂っていましたし、魚も多く食べていたそうです。色の濃い野菜も食べていて、小さな島の中でもバランスの良い食事を摂っていたことが、長寿の謎を解くキーワードになるのではないかと思っています」

沖縄県出身で後の夫と出会って以降、2012年頃から渡嘉敷島に年に数回訪れるようになった石坂さん。2014年に結婚してからは、さらに頻繁に島を訪れるようになり、夫の親戚を中心に、普段の食事のほか冠婚葬祭の儀式で振る舞われる食事などについて教えてもらうようになったという。
沖縄県出身で後の夫と出会って以降、2012年頃から渡嘉敷島に年に数回訪れるようになった石坂さん。2014年に結婚してからは、さらに頻繁に島を訪れるようになり、夫の親戚を中心に、普段の食事のほか冠婚葬祭の儀式で振る舞われる食事などについて教えてもらうようになったという。
茹でた後に刻んだニガナと、島豆腐、出汁などを和えたニガナの白和え。ニガナの苦味とミネラル感が島豆腐のうま味とコクを引き立てていた。
茹でた後に刻んだニガナと、島豆腐、出汁などを和えたニガナの白和え。ニガナの苦味とミネラル感が島豆腐のうま味とコクを引き立てていた。
沖縄県産の野菜は、色が濃く力強い。フェンネルやセロリ、ビーツなど西洋野菜の栽培も進んでいると石坂さん。近くのマルシェなどを巡って、新鮮な野菜を買い求めている。お気に入りのファーマーズマーケットは宜野湾市にあるハッピーモア市場だという。
沖縄県産の野菜は、色が濃く力強い。フェンネルやセロリ、ビーツなど西洋野菜の栽培も進んでいると石坂さん。近くのマルシェなどを巡って、新鮮な野菜を買い求めている。お気に入りのファーマーズマーケットは宜野湾市にあるハッピーモア市場だという。

牛肉は赤身を食べる文化が根強い沖縄

全国のスーパーマーケットの健康惣菜メニューの開発に携わっている石坂さんは、県内の惣菜は、明らかに他県と比べて肉の惣菜が多いといいます。とくに赤身肉を使った惣菜がすごく売れるのが特徴です。

沖縄県内の小売店や飲食店での牛肉シェアは、オーストラリア産が7割、次いでニュージーランド産が3割とされ、和牛はまれに見かける程度で、ほとんど出まわっていません。輸入の赤身主体の牛肉が好まれていることがわかります。

「鳴き声以外はすべて食べる」とまでいわれるほど豚肉を使った料理が多い印象の沖縄県ですが、移住した石坂さんが驚いたのは、赤身肉を好んで食べることでした。沖縄県は、人口10万人当たりのステーキ店の多さが日本一で、深夜にステーキを食べるという独特の”締めステーキ”文化もあり、和牛のようにサシが入った牛肉よりも輸入の赤身肉をよく食べるのです。

歴史をみても沖縄と牛の関係は古く、12世紀から16世紀頃のグスク(城)時代には、役畜として馬とともに農村部で飼育されていました。当たり前に牛肉を食べていた時代を経て、琉球王朝時代になると牛や馬は農耕に有用で貴重な家畜として屠殺が禁じられ、牛を食べる文化はいったん途絶えます。ちなみに、食用の家畜として豚や山羊が導入されたのはこの頃とされています。

沖縄で牛肉がふたたび食べられるようになるのは、第二次世界大戦後。アメリカ軍相手にステーキ店などが開業すると、沖縄の食文化にも影響を与え、牛肉を食べる習慣が広まるきっかけになりました。

石坂 「沖縄県で最初に食べられていたのは、サシが入った和牛ではなくて赤身主体の輸入牛だったはずです。渡嘉敷島のおばぁたちも、高齢になってから牛を食べるようになったそうです。私は、それが逆に良かったんじゃないかなと思ってます。赤身肉は、良質なタンパク質が摂れるのと、鉄分も含むミネラルが多いのもいい。そういったものを効率よく摂っていたのが長寿の秘訣の一つになっていると思います」

オージー・ビーフのなかでもグラスフェッドビーフがお気に入りで、自宅で食べるときもグラスフェッドを選んで焼いている。しっかりと沖縄県産の雪塩とコショウを振ってから、フライパンで強火で焼く。さらにアルミホイルに包んで余熱で火を入れていく。オージー・ビーフのなかでもグラスフェッドビーフがお気に入りで、自宅で食べるときもグラスフェッドを選んで焼いている。しっかりと沖縄県産の雪塩とコショウを振ってから、フライパンで強火で焼く。さらにアルミホイルに包んで余熱で火を入れていく。
オージー・ビーフのなかでもグラスフェッドビーフがお気に入りで、自宅で食べるときもグラスフェッドを選んで焼いている。しっかりと沖縄県産の雪塩とコショウを振ってから、フライパンで強火で焼く。さらにアルミホイルに包んで余熱で火を入れていく。
外はカリっとしながらも、なかはミディアムレアでしっとりと。やや薄めにスライスすることで、世代を問わずに食べやすくなる。
外はカリっとしながらも、なかはミディアムレアでしっとりと。やや薄めにスライスすることで、世代を問わずに食べやすくなる。
「沖縄県民にとってステーキは特別な日に食べる外食のイメージが強いのと、みんなで飲み会してすごく楽しい楽しいってなったときに食べたりという感じです。関西の人には、和牛に対して別予算があるっていいますけど、沖縄県民には赤身肉やステーキ肉に別予算があることをすごく感じました」と石坂さん。
「沖縄県民にとってステーキは特別な日に食べる外食のイメージが強いのと、みんなで飲み会してすごく楽しい楽しいってなったときに食べたりという感じです。関西の人には、和牛に対して別予算があるっていいますけど、沖縄県民には赤身肉やステーキ肉に別予算があることをすごく感じました」と石坂さん。

オーストラリアに行って感じたハッピーな牛肉

石坂さんは、子どもの頃から脂が多い和牛が苦手で、食べる機会は少なかったといいます。高校生になって脂が少ない赤身肉のステーキを知り、少しずつ牛肉を食べる機会が増えていきました。

高校卒業後にホテル勤務をしながら、19歳でミス・ユニバース ジャパンの選考会に応募すると、11名のファイナリストのひとりに選ばれます。その時に女性としての内面を含めた美しさを求める自分を含めた女性たちが、無理なダイエットをしながら選考に挑む姿を見て、「きれいな身体を作るための食事」に関する知識やメソッドの必要性を強く感じることになりました。

人の体と食の関係の深さに触れ、大会後に食との道に進みます。栄養士、サプリメントアドバイザーの資格を取得後、フードコーディネーターとして活動をスタートすると、食と健康、美容をテーマにした本の執筆など活動は多岐に渡るようになります。

健康と食への関心が深まっていくなか、石坂さんは、苦手意識をもっていた和牛の肥育環境について疑問を感じるようになったといいます。

石坂 「牛舎のなかでずっと育てられたり、和牛の特徴であるサシを入れるために、ビタミンAの摂取を制限する飼育方法が不健康に見えて、そのお肉自体がすごくかわいそうに感じてしまったんです。そういったなかで、MLA(Meat & Livestock Australia、豪州食肉家畜生産者事業)さんが企画した、鉄分を豊富に含む赤身肉の栄養価を多くの人に伝えようとする『鉄美人』のプログラムに声をかけていただいたんです」

プロジェクトを通じて、オーストラリアのグラスフェッドビーフ(放牧飼育牛)について知ることになったほか、2012年には農場視察のため初めてオーストラリアを訪れることになります。

石坂 「広大な農場のなかに山があって谷があるような豊かな環境のなかで、ノビノビと暮らす牛たちがとてもハッピーに見えたんです。それこそお肉になる直前までハッピーな状態でいるのは、やっぱり日本ではなかなか見ることができない景色で、すごくいいなと思ったんです。それ以来、私自身の食材としての好みや価値観を含めて、オージー・ビーフは、私にあうんだと思うようになりました」

栄養士の視点からみても、グラスフェッドビーフに代表されるような赤身肉は、鉄分が豊富でアミノ酸バランスがよく、広く勧められる食材でもあります。

さらに、オーストラリア産牛肉は、脂身が少ない分、たとえば酸化に強くエネルギーになりやすい中鎖脂肪酸(MCT)が豊富なココナツオイルや、悪玉コレステロールを減らすとされるオレイン酸を多く含むオリーブオイルなど好みのオイルを添加できるのも魅力だといいます。

2012年、鉄美人プロジェクトの視察でオーストラリアの牧場を訪れた石坂さん。
2012年、鉄美人プロジェクトの視察でオーストラリアの牧場を訪れた石坂さん。
視察では、シドニーから飛行機で1時間半くらい行ったオルバリーにあるRennyleaという名の農場を訪れた。農場の面積は約2800haで飼育頭数は約3000頭。日本では想像もつかない規模に驚いたという。
視察では、シドニーから飛行機で1時間半くらい行ったオルバリーにあるRennyleaという名の農場を訪れた。農場の面積は約2800haで飼育頭数は約3000頭。日本では想像もつかない規模に驚いたという。
農場を営むブライアンさん(左)とルシンダさん(右から2人目)とともに記念撮影する石坂さん。「日本では牧場っていうと狭い牛舎に牛がいっぱいでストレスフルなイメージでしたが、オーストラリアに行ってみると、土地が広いということももちろんあるかもしれないですが、価値観がまったく違うことを感じました。こういう環境づくりの努力が、おいしい赤身肉を生んでいるのだなと思うと、何だか感動でした」と石坂さん。
農場を営むブライアンさん(左)とルシンダさん(右から2人目)とともに記念撮影する石坂さん。「日本では牧場っていうと狭い牛舎に牛がいっぱいでストレスフルなイメージでしたが、オーストラリアに行ってみると、土地が広いということももちろんあるかもしれないですが、価値観がまったく違うことを感じました。こういう環境づくりの努力が、おいしい赤身肉を生んでいるのだなと思うと、何だか感動でした」と石坂さん。

糖質を抑えても赤身肉と緑黄色野菜で満足感を維持する

農場でオーストラリアの畜産環境を知った石坂さんは渡豪以降、とくに栄養バランスの良く、自身のライフスタイルにもよく合うグラスフェッドビーフを健康惣菜メニューのなかで積極的に使うようになりました。

石坂 「グラスフェッドビーフは、何にでも味があうと思っています。たとえばローストビーフにして和風のソースに合わせてもいいですから、家庭向けにもメニュー開発しやすいと思います」

沖縄県のスーパーマーケットの弁当などの健康惣菜メニューの商品開発をしている石坂さんは、栄養バランスをとるとともに、白飯を減らし糖質の摂りすぎを抑えるような工夫をしているといいます。とくに、前述の平均年齢の結果をみても、高齢者よりもむしろ若い世代に課題があることからも、食べた満足感を維持しながらも食べる白飯の量を減らす。それを可能にするのも、オーストラリア産牛肉だと考えています。

石坂 「食べてハッピーな気持ちで糖質を下げられるようにしたいですね。オージー・ビーフのローストビーフのような赤身肉をたっぷりと入れる代わりに、ご飯の量を減らす。それだけはなくて、緑黄色野菜を中心にした副菜も含めてお弁当1品として、栄養バランスを良くしていきます」

たとえば、体重60kgの男性だったら1日に60gのタンパク質が必要です。それを1日3食としたら1食なら20g。現代人の食生活では、1日3食食べない人もいるので、1食で20g以上をちゃんと摂れるように設定しています。

じっさいこの日に用意してくれたランチボックスは、オーストラリア産牛肉が20gに加え、豆腐を入れたり、この卵とツナが入った副菜を盛りつけています。さらに野菜は、1日350gを目標にすると1食で120g以上。さらに発酵食品を使ったり、とくに栄養価の高い食材を使うことでバランスのよい食事を目指したいといいます。

「おいしいと思ってもらえるように、なおかつ健康面にも配慮して塩分が高くならないように、うま味や酸味をうまく使ってカバーするようなテクニックも使っていきたい」と石坂さん。オーストラリア産牛肉を使ったおいしくて、健康的な惣菜で長寿の国・沖縄県の食文化を繋いでいきたいと考えています。

石坂さんが考案したオージー・ビーフのローストビーフをメインにしたランチボックス。右のボックスには、お茶碗一杯ほどの玄米ご飯にローストビーフ、菊芋のチップスと、コカブとビーツのグリルが盛り込まれている。菊芋の香りとシャキッとした食感、コカブのジューシーさ、ビーツの甘味と土っぽい香り、しっかりとボディ感のある和風ソースのバランスが秀逸。男性にとっては、少なめに感じるご飯の量をバラエティある副菜でカバーしていた。左のボックスには、ニガナの白和え(下)、沖縄の伝統料理ニンジンシリシリ(右)、赤キャベツのリンゴ酢炒めが詰められている。
石坂さんが考案したオージー・ビーフのローストビーフをメインにしたランチボックス。右のボックスには、お茶碗一杯ほどの玄米ご飯にローストビーフ、菊芋のチップスと、コカブとビーツのグリルが盛り込まれている。菊芋の香りとシャキッとした食感、コカブのジューシーさ、ビーツの甘味と土っぽい香り、しっかりとボディ感のある和風ソースのバランスが秀逸。男性にとっては、少なめに感じるご飯の量をバラエティある副菜でカバーしていた。左のボックスには、ニガナの白和え(下)、沖縄の伝統料理ニンジンシリシリ(右)、赤キャベツのリンゴ酢炒めが詰められている。
「惣菜は味が濃くて不健康なものと思われがちですが、近年はナチュラル志向になっています。健康に良い惣菜を作ることで、選べる選択肢が増えていくのも大切なことだと思っています」と石坂さん。
「惣菜は味が濃くて不健康なものと思われがちですが、近年はナチュラル志向になっています。健康に良い惣菜を作ることで、選べる選択肢が増えていくのも大切なことだと思っています」と石坂さん。